起業・会社経営

応募者から採用者へ~採用する側に立って初めて見えた風景

東京で会社員をやっていた頃、私の立場は「応募者」でした。

手前みそでおこがましいのですが、私は結構面接が得意です(笑)。応募者数十人の中から自分一人を選んでもらったことは一度や二度ではありません。書類選考さえ通って面接会場に呼んでもらえればほぼ落ちることはありませんでした。社員2人の零細企業の翌日にスマホゲームアプリのITや、社員数万人の会社など色んな規模の会社で数十回面接を受け続けてきたので、自分の売り込み方、人事担当者の求めること、市場価値の考え方などかなり理解をしているという自負があります。当時、調子に乗っていた私は、

「いざとなれば転職をすればいい。面接さえ呼んでもらえれば自分は受かる!」

と、とてもチャイルディッシュで恥ずかしくなる考え方をしていたことがありました。今では会社員を辞め、事業者として毎日仕事に取り組んでいる私は気がつけば「応募者」から「採用者」へと立場がぐるりと180度変わってしまいました。

採用者としては駆け出しで知識、ノウハウ、経験も全然ありません。まだ見えていないものもたくさんあるのですが、現時点で採用者として立場が変わったことで得た気付きを記録しておきたいと思います。

 

採用する立場として第一優先は「辞めない人」

応募者をやっていた頃に気付かなかったのは

「辞めない応募者」

の価値です。

採用する立場として最大のリスクは「退職」です。どんなにコミュニケーション能力に優れ、どんなに正確性・処理速度が高くても辞められたら全てが「ゼロ」になってしまいます。仕事を教える時間、ミスをカバーする労力など、新しく人を採用すると時間・人的エネルギー・経費など様々な経営資源を投入して育成に臨みます。1ヶ月経ち、2ヶ月が経ってようやく仕事に慣れてきたかな~?という頃に

「もう会社を辞めます」

となるとその痛手の大きさはかなりのものです。特に大企業などではなく、私のように熊本の片隅で小さな会社をやっている立場からすると、人員が1人減るとその穴の大きさはでかいと感じます。これは応募者をやっていた頃は全然見えていないことでした。世の中にある就職・転職指南本には

「人事が欲しい人材はこういう業界の経験とスキルだ!」

などのテクニックが書いてありますが、それはいずれも

「入社して辞めない」

という前提条件に基づくものです。どんなにスキルや経験があっても、辞めてしまったらもうその人は働いてくれません。最近もよく面接をしていますが、自分が求める能力やスキルがある応募者が前の会社を2ヶ月で辞めてしまったことを理由に、採用を見送ったことがあります。

「この人は前の会社をたった2ヶ月で辞めてしまった…うちですぐに辞められるのが怖い」

と思ったわけです。これからあなたがベンチャーや中小零細企業に応募しようと思っているなら

「この会社に入ったらしっかりと長く続けて、やめるつもりはありません!」

と多少ハッタリでもズバッと言い切ってみてください。その方がスキルや経験自慢をする以上に採用される可能性が高くなると思います(笑)。

 

「若さ」より魅力的な「素直さ」

世の中はとにかく「若さ」に重点を置くものですよね。ビジネスでも結婚でも友達でもとにかく「若さは価値」であり、絶対的なもののようにもてはやされます。

確かに若さはすごいバリューです。アルバイト・社員ともに採用をする上ではまったく同じスキル・経験を持つ人物が応募してきたら、誰もが若い方を採用したいと思うものです。私は応募者をやっていた頃は「若さ」の鎖に繋がれた犬のようでした。

「27歳だとこの業務のこのくらいの範囲の経験が必須だ」
「32歳になるとマネジメント経験を積み始めることで、市場価値を高められる」

という具合で、

「ああもうこの年齢なのに、この業務の全体感を得る経験を積めていないのは焦るな…」
「この年齢で外資系コンサルティングファームの人と働き、ノウハウを得えいるのは市場価値があるな」

とそんな事ばかり考えていました。

でも採用する立場に立ってみるとそういった年齢に応じた経験やスキルというのは、あくまで「採用の入り口」に過ぎないことを理解しましたね。東京圏では大企業が人材募集をすると、あっという間にたくさんの応募者が殺到します。私が働いていた部署はかなりハードで、大変なスピード感があり、求められるパフォーマンスはとても高いものです。結果として出て行く人と入ってくる人の代謝が激しく、

「募集をかければいくらでも新しい人は入ってくるものだ」

という幻想を持っていました。ところが、熊本県の小さな会社で採用をやるとなかなか思ったように人が来てくれません。募集をかけても応募があるのは数日に1人、下手をすると1週間応募が来ないこともあります。ですので、

「スキルや経験重視で書類選考で厳しくチェックする!」

というやり方ではなく、できるだけ直接面接をして判断をするということをしています。そんな時に私が見るポイントは

「若さ以上に素直さ」

というものです。若くてもおしゃべりをして、口ごたえばかりでちゃんと働いてくれない人より、中年期の方でも一生懸命言われたことを理解し、教えたことをメモを取って自宅で復習するなど自助努力に余念がない人の方が魅力的に思えます。また、他の会社で働いた経験がない若い人だと、慣れてくるとすっかり仕事を知った気になってしまい、強い我を出してしまう人も過去にいました。そういう人ほどこれまで自分がやっていたやり方に固執し、新しいシステムや改革には強い抵抗をするものです。

「若い人は無条件に素直だ。年をとるほど頑固になる」

などと言われますが、私は違うと思います。元々頑固な人が年を取ることでますます頑固になるだけで、元々素直な人は年を取っても素直で変化を受け入れてくれるんじゃないかと思いますね。仕事をする上では「年齢」という数字にとらわれず、少なくとも中小零細企業にとっては言ったことを素直に受け入れ、仕事をしてくれる人の方が魅力的なのだと感じます。

 

思っていること、要望はハッキリいってくれ!

面接は応募する側の立場が弱く、採用する方が一方的に裁量があるように思われがちです。ですが、採用する側に立って

「採用は対等な立場なんだ」

ということがよく理解できます。採用する側が有利というのは、応募する側が採用する側の求めるものを持っていない時だけです。私は応募者をやっていた頃、

「希望する年収は?」
「どのように仕事をしたいですか?」

と聞かれて

「御社のご意向通りで構いません」

といっていました。これは

「自分の我を出すことなく、御社の要望に合わせますよ」

と言っていたわけですが、その真意は

「落とされたくない」

という一点でしたね。でも採用する立場に立つとこの回答をされるととても悩ましいものがありますね。先日面談をした方も

「うちは土日を含めたシフト勤務ですが大丈夫ですか?」

と聞いて

「はい、御社の要望通りで構いません」

といってくれたのですが、後日

「家族で一緒に過ごしたいから土日勤務は出来ません」

とお断りされてしまいました。その応募者の方はとても魅力的でぜひとも働いてほしいので、

「来てくれるなら土日は休みにして、代わりに土日に出社したいという人と調整しようかな!?」

と思っていたのでがっかりしてしまいました。

応募者の隠れた本音は採用者には見えません。思っていること、要望はハッキリいってくれる方がありがたいです。要望をいって不採用にすることはありませんので、うちに応募する時はぜひ本音トークで面接に来てください(笑)。

 

応募者と採用者は180度立場が違う

応募者、採用者は立場が180度違うのでお互い相手の立場に立った経験がないと分からないものです。私は両方の立場に立ったことでそのことを体感しました。

採用者の求めるものがよく分かるようになった今、応募者に戻れば昔以上に面接合格できるでしょう。でも今後も事業者として人生を生きていくので、直接使う機会はありません。ですので、このブログやその他の場所で誰かの役に立つ経験談としてお話をしていきたいと思っています(笑)。

黒坂 岳央

高級フルーツギフトショップ経営、雑誌・テレビのビジネスジャーナリスト、作家、講演家、投資家と幅広く活動。 元・高卒ニート&フリーターだが、米国大学留学を経て外資系勤務後に起業。 メルマガも書いてます→https://takeokurosaka.com/mailmagazine/

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