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日米中の若者が競争社会を降りる、それぞれの理由

昨今、中国では寝そべり族と呼ばれる若者が増えているという。熾烈な競争を早々に降りて、日々の最低限の生活でのんびり暮らすというものだ。また、米国では40歳までに早期リタイヤするFIREが空前のブームとなっている。我が国でも経済格差が広がる中、人生での華々しい成功を早々に諦めてスローライフを臨む人たちがいる。

世界経済規模トップ3の国で起きている若い世代による脱競争。「苦しい競争に自らを晒すことは自分の価値観に合わない」という点で共通していても、その理由は異なるように思える。脱競争の是非は別の議論が必要だが、今回はそれぞれの動機の違いを考察したい。

 

中国は都心部格差

中国の競争は早くも学生時代から始まる。その熾烈さは日本とは比べ物にならない。日本人の人口は1億2000万人で東京大学の学生は約2万8000人、たいして中国の人口は13億人で北京大学の学生は約5万2000人(2016年調査)だ。最高学府の学生数は2倍なのに、人口は10倍以上の差がある。大学入学の難易度は十把一絡げに決めることは難しいものの、この概況を俯瞰することで日中の競争の差を感じ取ることができるだろう。

中国の格差は都心部と地方という地理的なものに由来する。都市戸籍と地方戸籍で社会保障や環境などの差がついてしまう。また、厳しい競争を勝ち抜いた都心部出身の勝者であっても、その熾烈さに疲れはててしまう。人生を高めようという意欲を失い、結果として寝そべり族になるのだ。SNSでは昼間からのんびり過ごす寝そべり族の姿が投稿されている。彼らは最小の仕事で、誰も愛さず、自分のためだけに生きる。

 

米国は資本力格差

アメリカはチャンスが開かれた社会であり、どのようにキャリアアップするかも明確にされている。一般論として、有名大学に入学して一流企業に入り、MBAを取得してエリート同士の出世競争に打ち勝つなどだ。また、起業した会社をバイアウトして、その資金で新たなビジネスを立ち上げたり、資産運用で生活していくというルートもある。筆者も米国系企業の会社員をしていた時は、上司から「この会社で出世したいなら、MBAを取りなさい。そうすれば推薦も受けられる」といわれた経験がある。

だが、アメリカの若者の一部は、こうした成功ルートをたどることには否定的だ。なぜなら、有名大学への入学、出世競争やMBA取得などにもお金や学力が必要であり、見える化された苦しい競争ルートにうんざりしているからだ。米国は世界でもっともチャンスが開けた市場だが、それでも結局は生まれ持った能力や親の資金力、最後まで耐え抜く精神力などの「資本力」で勝負する世界と言えるのではないだろうか。それだけでない。チャンスを掴むべく、世界中から優秀な人材が集まる米国では他国以上に熾烈な競争を余儀なくされるのである。

 

日本は世代間格差

我が国においても、かつては成功ルートのようなものがあった。一流大学に入り、一流企業に入社して努力すれば良い生活を送ることができた。結婚をして郊外に一戸建ての家を買い、年金で裕福な生活を送るのが理想的な姿と見る人は多かっただろう。

しかし、現代はそれらは崩れ去った。一流企業に入社しても、その企業が残りの人生の間存続するかはかなり難しい。日本で最も時価総額の大きいトヨタも「終身雇用制度の維持は難しい」と表明しているほどだ。また、結婚するにも相応の年収が求められるようになり、かつては「普通」だったハードルは見上げなければ越えられない壁となった。さらに日本の年金をあてにしている若者はほとんどいなくなってしまった。人口ピラミッドの形状もひょうたん型へと変化していることから、現実的な年金ライフは論理的に難しくなっている。

国力が世界屈指に高く、夢と希望に溢れた日本経済を謳歌した世代は、自分たちが頑張ったように子供たちには「頑張りなさい」というだろう。だが、そうでない世代からすれば「自分たちばかりいい思いをしていたが、我々の世代はそうではないのだ」と言い返したくなる気持ちになるはずだ。日本は過去70年間という短期間で、あまりにも大きな変化を遂げたために、生まれた世代でそれぞれが考える生存戦略はかなり異なるのだ。

 

このように日米中では「厳しい競争はしたくない」という点では共通しているが、それぞれの置かれた環境や見えている風景は異なるように思える。「自分は人生で何をしたいのか?」「経済的、社会的成功だけが人生ではないはずだ」、若者の胸中を渦巻く人生哲学が今ほど多様化した時代は、過去にないのではないだろうか。

黒坂 岳央

高級フルーツギフトショップ経営、雑誌・テレビのビジネスジャーナリスト、作家、講演家、投資家と幅広く活動。 元・高卒ニート&フリーターだが、米国大学留学を経て外資系勤務後に起業。 メルマガも書いてます→https://takeokurosaka.com/mailmagazine/

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