今回は「40代以降の英語やり直しはどこまで伸びる?純ジャパ非ネイティブの科学的限界」というテーマでお話をします。
英語の勉強をしている時、多くの人が感じる不安は「結局、今からやり直しても大してものにならないのでは?」と限界ですよね。認めたくない事実として、確かに大人になってからの外国語取得には、現実的な成長の限界が存在します。第二言語習得(SLA)の研究では、大人になってからの外国語取得には発音、文法、語彙などの限界値があると明確に示されています。
「うわあ、聞きたくなかった…お前、いつも聞こえのいいことばっかり言ってるけど、結局限界があるんじゃねえかゴルァ!」コメカミに青筋立ててブチ切れるそこのあなた。待って下さい。また絶望するには早い。おそらくあなたが今感じた漠然とした限界への不安と、黒坂が考えている限界は全然違います。大人になってからの英語学習にリアルな限界があることは隠すつもりはなく、むしろやる前から「どこに限界があり、どこに伸びしろがあるのか」と限界値を正しく理解した上で、非現実的でムダな努力をやめ、大きなハンディとして出さない工夫をするべきだと思っています。「5Gに接続すると脳みそを乗っ取られるー!」ってビビリすぎな人がいたら変でしょ?要は正しく怖がろうと。
今回は語学研究を踏まえ、語彙・文法・スピーキング・リスニング・異文化理解といった項目ごとに「限界」を解説し、特に40代・50代の学習者が希望を持って取り組めるように解説していきます。非ネイティブの限界、と聞くと不安になるかもしれませんが、大丈夫、黒坂はあなたの味方です。あなたに勇気とやる気を出してもらえる内容になっていますからぜひ最後まで見て下さい。
目次
1章 非ネイティブの「英語力の限界」
まず大前提として、「限界」という言葉は非常にネガティブで誤解を生みやすいです。厳密にいえば、限界というより「ネイティブと完全に同じレベルに到達するには高いコストがかかる領域」という意味で理解しましょう。一言で言うと「コスパが悪い」。到達が不可能とまでは言わないが、莫大な努力の割に得られる成果が少ない分野が存在するから、そこはバッサリ捨てたほうが圧倒的に効率がいいよね、という理解です。
たとえば英語の発音。ネイティブレベルの完璧な英語の発音は大人になってからの学習では極めることが難しい、と知られています。でも発音記号を徹底的に研究して、マンツーマンでネイティブチェックを受け続ければ、相当なレベルには到達できるでしょう。でも現実問題として忙しい社会人が道具としての英語にそこまでやりますか?もっと優先順位高いものがあるんじゃないですか?という話です。
また、語彙力についても同じです。ブリスバート氏の “lemmas(レマ)”という研究によると、ネイティブの語彙力は最頻値で4万語くらい。大学院卒、ビジネスエリートなど教養のある場合はさらに語彙力は多いです。英検1級の合格には1万語以上必要と言われますが、その何倍も必要です。でもその気になれば4万語を取得することも不可能ではないが、そこまでやる人はほぼいない、という話です。
ですから、SNSとかなんちゃらインフルエンサーがいう「日本人が大人から英語を勉強しても限界がある」とまるで理論上不可能であるかのようにいっています。厳密には「非常に集中した特殊訓練を長期で受け続ければ、ネイティブに近いレベルに到達することは不可能ではない。だが現実としてそのような訓練には膨大な時間とエネルギーが必要で、現実そこまでする人はほとんどいない。さらに超上級者の水準は外国語取得における才能要素も求められる」という理論上可能だが、事実上不可能という解釈ができるでしょう。つまり、できるかどうかという能力の問題と言うより、かけられるコストの問題です。
一発で伝わる英語の発音ができるのに、ネイティブの専属教師までつけて徹底的に音を磨き込むのは実用性はほとんどなくて、半分趣味の領域ですね。やっている人は立派だと思いますし、素晴らしいと思いますが、自分は英語学習者には積極的に勧めません。コミュニケーションに問題が出ないなら、英語そのものを磨くより英語を使ってやりたいことを追求することに限られた人生の時間を使うべきだと思うからです。
ここまでの話を聞いて落ち込んでいる人いますか?大丈夫だよね?「ああ、なんだかんだいっても限界って言葉を誤解してたわ」と。はい、安心して下さい。大丈夫です。最初に言った通り、逆に勉強前から限界とコストを知っておくべきです。そうすれば、「ここは安値で買えるが、あれは高値すぎてコスパ悪すぎなのでやる必要がない」と上手に割り切れるようになります。98点を99点にするより、0点を70点にする方が圧倒的に時短かつ効果も高いです。
iPhoneの容量も256GB、もしくは512GBで十分なんですよ。「せっかくだから、念の為自分は1TBの容量のを買おうかな?やっぱ思い出って大事じゃん?」はい、それコスパ悪すぎです。99%の人は1TBなんて使いきれません。使わないもののために容量マシマシ料金が超上乗せされてコスパ悪すぎです。イタリアンレストランで見る、でかいチーズをくるくる削る機器は一般家庭に要らんのですよ。絶対に埃かぶるやつやそれ。
英語もそれと同じ。限られたリソースを「投資する価値の高い英語スキル」に集中投下できるのです。
2章 英語スキル別、非ネイティブの限界の壁
それでは2章からは、英語スキル別、非ネイティブの限界の壁について解説をしていきましょう。
1.語彙力
語彙に関しては「深さ」の面で限界が存在します。英語のネイティブスピーカーは、英単語の微妙なニュアンスや、文化に紐づく慣用句・スラングを幼少期から自然に浴びています。この微細な表現の違いを大人の学習者が完全に再現するのは現実的には難しいでしょう。
たとえば、語彙の「深さ」で非ネイティブの我々が苦労するのが、GetやPutのような、一見簡単で実際は応用範囲が無限に広い句動詞です。これらの動詞は、シンプルだからこそ、ネイティブは独自のコアイメージを持っています。」ネイティブは、『Get』を『ある状態への変化や移動』として、『Put』を『何かをどこかに配置する』というコアイメージで捉えています。しかし、これが前置詞と結びつくと、我々非ネイティブには意味が予測不能になります。
たとえば「延期する」という時、非ネイティブはpostponeを使いますが、ネイティブはput offを真っ先に使う。耐えるという時はTolerate / Endureを使いたいところですが、ネイティブはPut up withを使う。これは彼らが「Put up(上に置く)」と「With(一緒に)」から「嫌なことを受け入れて耐える」という意味を導き出すからで、非ネイティブの我々が全く同じ感覚を持つのはなかなか難しい。
2.文法力
文法は非ネイティブでもハンディがなさそうですが、意外とそんなことはありません。一定レベルまで到達した学習者が一部の誤りをいつまでも繰り返してしまう現象があります。語学研究の世界では「化石化」と呼ばれます。たとえば非ネイティブは冠詞を完璧に使いこなすのが難しい、といった事例がその典型です。
3.発音
発音は分かりやすい限界の壁です。「臨界期仮説」が有名で、思春期を過ぎると母語の影響が強まり、ネイティブと区別できないレベルの発音を獲得することは難しくなるとされています。これを矯正しようとすると莫大な時間とエネルギーがかかるので、現実としてコストの問題で発音を磨く優先度は後回しになります。
4.スピーキング
スピーキングについては、大人の学習者はワーキングメモリの制約で、話しながら文を構築するスピードに限界があります。どうしても発話に「間」や「言い直し」が残ります。ですから英語が非常に上手にスピーキング出来る人でも、ネイティブ同士のスピーディーな会話には、内容の理解にはついていけても、自分がその会話に発言するのが難しいという場面は数多くあります。
5.リスニング
リスニングの限界の壁はいくつかあります。たとえば雑音の中での会話、複数人が同時に話す会議、強い訛りを含む発音、電話越しの発音、スラングが多用される会話などは非ネイティブにとって処理が難しい場面です。これは脳が音声を分解し、意味を再構築する処理に時間を要するためです。
6.異文化理解力
そして見落としがちなのが異文化理解力です。言葉の使い方には文化的背景が深く影響します。日本人にありがちな「I think」の多用や、曖昧な婉曲表現は、ネイティブに誤解して伝わる事が多いです。
具体例を言えば、日本人がI think it might be difficult to launch next month. (来月ローンチするのは、少し難しいかもしれませんね。)というと、遠回しに無理だといっています。ざっくり90%くらい不可能と言いたい。でもネイティブは”Maybe” we can do it. (難しいかもしれないが、最終的には努力してやる)という難しいが30%くらいは実現可能だという温度感で解釈されてしまうリスクがあります。たとえると「いけたらいくわ」という大阪人の発言を真に受けて、しっかり待ち合わせにいってしまうというものですね。いや、いけたらいくわは99.9%が遠回しのお断り表現なんで関東の方はそこよろしく理解してくださいよ。
先程の誤解リスクはAI翻訳を入れてもまったく解消されません。AIは単語は翻訳できますが、文化に根ざした「確信度」や「文脈上の意図」は翻訳できません。相手との距離感、立場の違いまではわからないから。もちろん、英語圏にも婉曲表現はあります。でも日本人の婉曲表現とは違って、遠回しに反対した後に、必ず明確な代替案や理由をすぐに付け加えます。。たとえば今の例で言えば、
I think it might be difficult to launch next month. However, we must commit to this deadline. Let’s revisit the scope to make it happen.(来月のローンチは難しいかもしれません。しかし、私たちはこの期限を遵守しなければなりません。達成するために、計画のスコープ(範囲)を見直しましょう)というでしょう。でもこの発想は日本人からはなかなか出てきません。
3章 武器としての英語!限界の壁をハンディにしない方法
ここまで見てきたように、非ネイティブの英語力には確かにいくつかの「壁」があります。でも、それは悲観しなくても大丈夫です。むしろ中高年の非ネイティブ学習者にハンディが出ない方法があります。
多くの日本人学習者は「ネイティブ並みの英語」を理想と考えがちです。でも、現実的に戦うべき相手はネイティブ英語ではありません。そうではなく、外国語の限界の壁が出ない場所で戦う戦略です。
そもそも、英語は道具、手段という考えを持ちましょう。英語は、エクセルや自動車の運転に例えるとわかりやすいです。オフィスでエクセルを使うとき、関数やマクロを一から開発できる必要はありません。業務に必要な表やグラフを作れれば十分です。「うわだっさw エクセルで表計算、関数しかできないの? やっぱり一流のビジネスマンたるもの一からエクセルを開発してナンボでしょ?」どういうレベル感?おかしくない?何そのツッコミ、お前はできるんかい!って言い返したくなるよね。同じように、自動車を運転するときも、エンジンの内燃機関がどう動いているかを理解している必要はありません。ハンドルとブレーキを正しく操作できれば目的地に到達できます。「お前運転しかできないの? 一端のドライバーたるもの、祝日で軽自動車をハイブリッド車に改造するくらいのことはできないとダサいよ」っていや、すごすぎん?お前はトヨタの研究開発部門にいけ。 多分年収2000万円で引き抜かれるぞ。
英語も同じです。会議を進め、資料を説明し、顧客と意思疎通できれば、それ以上の知識や技巧は不要です。英語の発音や表現がネイティブと違う、とバカにする人は「エクセルや自動車を開発できないのはニワカ」といっているのに等しい。英語なんて道具でしかないので、あまり神格化するべきではありません。
そこを踏まえるともっとも合理的なのはビジネス英語です。言い方を変えると「専門分野の英語」です。これはネイティブとの差が非常に小さい、もしくはまったくハンディがないと言っても過言ではないです。たとえば米国会計の現場で使われる英語は「会計語」です。黒坂は米国留学中、教師に会計の質問をしましたが、それを近くで聞いていたアニメーション専攻の友達から「黒坂の言っていることは一つも理解できなかった。英語のはずなのにまるで外国語のようだったよ」と笑いながら言われました。そう、米国会計は専門外のアメリカ人が聞いても1つも理解できない。
考えてみると日本人同士、日本語でも医療の専門家同士の会話は何一つわからない、というのと同じです。「尿素回路は肝細胞のミトコンドリアと細胞質に存在し、オルニチンサイクルとも呼ばれています」って呪文やめいと言いたくなりますよね?つまり、専門知識を持つ日本人が英語でやり取りするとき、相手のネイティブ会計士と知識面では対等に立てるということです。
これは法務、IT、医療など、あらゆる専門分野に当てはまります。英語の基礎力に加えて、その分野の専門用語を身につければ、非ネイティブであることはまったくハンディにはなりません。
多くの人が誤解することの一つが、通訳者や翻訳者です。彼らは「英語の達人」という印象を抱く人が多いですが、実際には正しくありません。実際に通訳翻訳歴30年、在米歴20年のベテランの人とも会話したことが何度もありますが、彼ら彼女らは厳密には金融や医療など特定分野の専門知識を兼ね備えたプロです。医療のバックグラウンドがない人が、医療通訳を完璧にこなすことはできません。
つまり、英語だけを磨くよりも、「英語+専門性」を持つ人材こそが高く評価されますし、目指すべきはここです。
4章 コスパよく取得する
2章で見てきた通り、非ネイティブにとっての「限界」は確かに存在します。ですが実用的なレベルでは大きな障害にはなりません。
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発音は「聞き取りやすさ」を確保すれば十分です。
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文法は「繊細なニュアンス」よりも「誤解を生まない正確性」を重視すれば問題ありません。
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リスニングは「ネイティブ同士の砕けた会話の100%理解」より仕事やニュースの正確な英語の理解を目指しましょう。
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語彙は4万語を追わず、「専門語彙」の獲得を優先すべきです。
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異文化理解は場数を踏んで誤解のないコミュ力を身につけましょう。
これであなたのやりたいことの99%はカバーできます。スマホの電波のように99%を100%にするのは国家予算全投入規模の投資が必要なのと同じで、98%とか99%のカバー率でいい。人生、英語だけに使うのはもったいないので、英語を使って仕事や学問に活用しましょう。
5章 よくある反論への先回り
それでは最後によくある反論を先回りして潰しておきましょう。
反論1. 「40代からじゃもう遅い。臨界期を過ぎたらハイレベルな英語はもう無理」
臨界期仮説は確かに「発音や自然な文法習得は若年期の方が有利」と言われます。しかし最新研究(ハーツホーン 2018)では、文法の敏感期は17〜18歳まで続き、語彙やその他の技能に年齢的なハンディはない。つまり「発音など一部は難易度は上がるが、道具としての英語の取得はほとんど影響しない」というのが現実です。逆に発音はきれいだが、学業や仕事に活用できる技能がないなら、美しい発音もカラオケで洋楽を歌うときくらいしか役に立たない。要は実用性とバランスの問題です。
反論2. 「結局、ネイティブみたいに話せないなら意味がない」
ネイティブ英語は世界的にマイノリティです。世界の英語話者の約7割以上は非ネイティブで、国際共通語としての英語(ELF: リンガフランカとしての英語)では、通じる明瞭さと論理的な意図の明確さが最優先です。実際に英語を使って仕事をすれば分かります。会議やディスカッションで意見が通るのは発音の美しさやネイティブっぽいジェスチャーではなく、意見の内容そのものです。
たまに「いや下手な英語だとネイティブも裏で馬鹿される」という意見もあってそれ自体は確かに間違いではない。しかし2つの問題があります。1つ目は誰もが認める素晴らしい意見や内容なら多少英語の発音や表現が正確でなくても一目置かれるということです。仮に裏で発音に悪口を言われるようなら、その人は大した内容の発言ができていないから舐められているだけ。インテリやシゴデキがリスペクトされるのは世界共通です。
そしてもう1つは発音を馬鹿にするような人間は、そもそも付き合う価値のないロクなやつではないから気にする必要はないということです。日本人同士でも田舎から上京して訛りを真似するような人間がいますが、まともな人はそんな下品なことをする人間に対してどういう印象を持つでしょうか?
もちろん、伝わりやすい正確な英語、発音も聞き取りやすいレベルには整える努力は必要だと思いますが、100点以外は0点みたいな完璧主義に陥るべきではないと思います。
反論3. 「専門用語は難しいのでは?結局ハンディがある」
むしろ逆です。専門分野のやり取りでは、ネイティブか非ネイティブかより、専門知識の有無が決定的です。会計・医療・ITなどの領域では、ネイティブでも専門家でなければ理解できません。つまり「英語力+専門知識」の掛け算こそ非ネイティブの最大の武器で、ここに年齢や母語は関係ありません。あなたが注力するべきは英語そのものではなく、ハンディのない専門英語です。
ということでお話をしてきました。「大人になってからの英語はもう遅い」って人は反省して下さい。あなたは実にトンチンカンなことに嘆いていたんですよ。確かに幼少期から始める人より伸びしろが限られる部分はありますけど、その部分ってそんなに決定的な差ですか?ってことです。それよりもハンディが一切ない、専門英語の方はなんでこだわらないんですか?こっちの方が圧倒的に重要度が高いですし、仕事の内容や人生の幅、チャンス、市場価値にダイレクトに影響しますよ。見るべき点が間違っていたんだよね。婚活に着ていく服には無頓着でアンパンマンのコスプレをしていくのに、靴下の色が赤か青かでしぬほど悩むようなもんですよ。いやそこ!?って思いません?そういうことです。限界の壁なんてムダな悩みはさっさと捨てて1cmでも英語力を前に進めることに時間を使いましょう。参考になったら幸いです。ほなまた。
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